原子力基盤クロスオーバー研究 研究構想
1.課題名(プロジェクトリーダー 氏名)
照射・高線量領域の材料挙動制御のための新しいエンジニアリング(木下 幹康)
5.研究目的・目標[注3]
原子力発電所の現場で用いられている構造・燃料材においては、ときして予想
外の材料挙動(亀裂発生、腐食、形状変化など)を示すことがあり、原子力発
電の信頼性を高めるために新たなエンジニアリングが求められている。そのひ
とつの切り口として、照射・高線量領域での材料挙動に対して、ナノスケール
で始まるクラスター化が、材料全体にひろがったマクロな挙動として発現する
非線形的に進む巨視的状態への移行過程を、自己組織化的なプロセスとして捉
える方法がある。
このプロセスの制御においては、線型性を仮定した予測手法による決定論的な
制御方法は有効ではなく、使用現場の状況に合わせたホリスティックなアプロー
チによる新たな制御手法の開発が望ましい。本研究ではその手始めとして照射
に対する材料固有の自己修復機能などの材料挙動に関する知識をできるかぎり
獲得するとともに、現場の状況因子を取り入れ、現場においてシミュレーショ
ンを可能とする手法を開発する。
現実に自己修復機能が発現している典型例として核分裂照射下の原子燃料セラ
ミックス材料がある。すなわち核分裂に伴う80MeV程度の核分裂片による照射
のもとで、十数時間で1Dpaに至る急激な損傷量にもかかわらず結晶構造を安定
に保ち、体積増加もなく核分裂エネルギーが熱化されている。そのメカニズム
は照射下での結晶再生機能にある。また数年の炉内燃焼の後には結晶マトリッ
クス内で飽和した核分裂生成物(Xenon等)の保持が続けられるように、自発
的に結晶構造を細粒化させカリフラワー構造と呼ばれるフラクタル的構造をつ
くり、より高燃焼度でも安定な結晶組織に変化する。本研究ではこのセラミッ
クス燃料挙動を作業用の研究対象とし、照射・高線量による影響を定量的かつ
多面的に解析し、その特性を明らかにしたい。具体的には
(1) 照射・高線量下での自己修復プロセスがみられる材料(原子燃料セラミッ
クス等)について、発電現場環境での材料のトータルライフ挙動を、即時的に
シミュレーションするコードを開発する。
(2) 発電現場での材料挙動を把握する手法について、高線量下での自己修復挙
動に着目してこれを創案し、現場適用の可能性を評価する。
(3) 計算科学的方法を用いて、ナノスケールから巨視的状態への自己組織化的
な非線形的過程について、作業対象を特定しメカニズムの解明を進める。
(4) 非線形数学的方法を用いて、材料の制御を可能にするしきい条件等の相関
式表現の導出を進め、シミュレーションコードの要素に用いる非線形プロセス
モデルにとりまとめる。
(5) 実験観察として加速器や電顕観察等によりナノスケールでのデータを取得
し、プロセスモデルの検証に用いる欠陥構造生成から巨視的構造の発生に至る
データを取得する。これらの解析と開発作業により、現場で用いられている構
造・燃料材の挙動につき、自律的なものも含めその予測制御にむけた一歩を進
め、ナノスケールの知見と数学的論理にもとづいて、原子力発電所の安全性・
健全性を管理する立場でその説明責任が果たせるようにすることが本研究の目
標である。
講演会:「核燃料・材料開発におけるフロンティア的諸課題(7)」
日本原子力学会:材料部会 第4回「シュラウド等材料問題検討会」
日本原子力産業会議:原子動力研究会 燃料・材料グループ研究会
日本原子力学会 関東・甲越支部 並びに 核燃料部会後援
日時: 2004年2月25日(水) 9:50〜17:30
場所: (財)電力中央研究所狛江研究所31会議室
9:50〜10:00 開会の挨拶 山脇道夫(東京大学名誉教授)
第1セッション:燃料開発の動向
座長;木下幹康((財)電力中央研究所狛江研究所原子力システム部上席研究員)
10:00〜11:00 「金属燃料の軽水冷却炉への適用可能性について」
常磐井守康(電力中央研究所 狛江研究所 研究参事)
11:00〜12:00 照射下の原子炉材料の新しい工学にむけて−新クロスオーバー研究−」
木下幹康(電力中央研究所狛江研究所上席研究員)