「原発安全革命:トリウム原発は可能か?」
2011年9月21日私学会館「エネルギー政策フォーラム」より
西澤潤一:世話人代表の挨拶
エネルギーの行き詰まりは将来の重大問題。エネルギー懇談会では、だんだん顔色を変えて
議論、経団連会長が意見を申すことも。チェルノブイルリ原発事故、早く手を打つべきだっ
た。子々孫々にいたる問題、ちゃんと人間が一生をまっとうできるように知恵を絞る必要が
ある。
吉田茂の秘書、「東北電力に入社したい」と言って福島県原発施設を取り戻すなどそれな
りのことをした。東北は感謝すべきだ。女房が薦めた本でなるほど本と思ったのは今回が初
めてである。
化学工業の役割は大きい、使った酸素の量を出していかないと両立しない。人口窒素をど
うつくるか。人口が増えると食料必要、肥料増産することになり、窒素のあるチリが豊かな
国になった。化学結合体を、うまくつくる必要がある。
親父が東北大学で化学工学教授だった。地球系というものを化学生産物とみる視点が必要に
なる。これをとりあげたのはヒットラーだった。ガソリンが無くてかまわない。合成すれ
ば良いという発想だ。これからの人類が如何にあるべきか。刺激を受けた。
今回の会合は、子供のようにワクワクしている。
講演 「原発安全革命:トリウム、液体燃料、小型化」
古川 和男 (株)トリウム テック ソリューション社長
日本は小さくて弱い国。日本を救うとしても、世界を救わないと、日本は弱いので最初に駄
目になる。世界に役立つものを目指すべきだが、過去の原発は不十分だったことは自明だ。最
近の3,40年は狂った原発の開発史だった。固体燃料ではだめで、液体燃料であるべきだった
のに、教科書からも消された。
トリウム熔融塩炉は、軍用に向かなかったから潰された。日本こそ開発すべきだ。ハンガリー
から米に亡命してきたユージン・ウィグナー博士が人類最初の実用原子炉(プルトニウム生産
炉)を作ったが、「原子炉というのは、核が化学変化する装置であり化学工学装置だ。物質が
変わるので液体燃料であるべきで、恐らく熔融塩が最適であろう」と、ユージン・ウィグナー
博士が戦中に予言していた。
太陽というは核融合エネルギー源であり、大いに活かすべきであるが、ただ基幹エネルギー
になるには数十年必要になる。それまでは核分裂エネルギーを活かさねばならない。 198
5年頃、我々は新しいトリウム熔融塩炉体系を完成し提案したが、核冷戦が妨害した。原発は、
市場原理的なものではなく、政策優先の発展をしたことでひずみが生じ、福島へとつながって
いった。 環境問題と貧困問題こそ、解決すべき人類の課題。ただしあらゆる産業は起きては、
いずれさらに良いものに替わられ滅ぶものであるのを忘れてはならない。
液体燃料を使うべきだ。リチウムとベリリウムの弗化物塩に核物質の弗化物塩を溶かして透
明、単一液体の核燃料を作る。これは、核反応のみでなく熱輸送や化学処理作業を、三位一体
で処理できる。原子炉自体がシンプルになるメリットがあるなど、良いことづくめである。
熔融塩とは、イオンが高温で熱運動をしている液体で、ガラスが解けたような状態と思って貰っ
てよい。反応生成物の良い溶媒である。水と同じ最高の比熱をもった熱媒体で、しかも高温で
も常圧ですむ。閉じた電子核をもっているから化学的には不活性、かつ放射線照射による損傷
が全くない。
厄介な量子化学体系でなく古典論的な反応体系で、理論的に性質挙動が予言できる。これは、
わずかな資金と人員で、何か問題が起きても理論的に解決できるということを意味する。
トリウムは原子番号90番、次に重い91番は天然にはない。92番のウランの三倍あり、入
手容易。場所的に限られるウランは、独占される地政学的デメリットがある。 核分裂増殖発
電炉を理想と思うのは幻想だ。複雑で巨大、それでも増殖力弱く不経済だ。
我々の熔融塩炉は小型でも燃料自給自足型、炉の性能がドリフトしない。単純、かつ原発と
して理想的な炉となる。
常圧系で安全だが、それでも壊れるようなことがあったとしても、燃料塩が漏れて減ると炉
は止る。融点500℃以下で、安定なガラス状に固化する。核廃棄物を、ガラス固化体にする
のと同じで、放射能を吐き出さない良いコンテナになる。 一万キロワットの発電能力をもっ
たより小型のものミニフジを先ず作る。
軽水炉は400℃になると使えない。効率が悪い。生み出す電気の倍ぐらいの熱を捨ててい
る。 熔融塩炉は700℃で動き電気と廃熱が半々、廃熱が半分になる。また有望な水素製造
装置にもなる。超臨界水蒸気発電で、45%ぐらいの熱効率は容易である。
*(付記:なお、私の話は余りに不備不十分なものです。出来ましたら、少なくも拙著「原
発安全革命」(文春新書:増補改訂版 2011.5)を是非お読み頂き、補足願いたい。)
パネルディスカッション 「トリウム原発;実現の条件」
古川:まずミニフジをデモンストレイトしたい。300億円から500億円の予算(20万kW
の標準小型炉フジの先行投資も含め)。 ニッケル合金で作られ、ステンレス同様使いや
すい。機器製造には、同じ高温融体の液体ナトリウム技術がより易しく流用できる。高速
炉開発投資が回収出来る。システムの安全性、極めて小さい「低レベル廃棄物」の生成、
化学処理とメンテナンスが激減。実質的な超ウラン元素の生成なし。燃料塩は初期の核分
裂性物質としてプルトニウムを利用し、その有効利用消滅に活かし得る。
トリウムは日本にはないが世界中にある。トルコが30年前、その後ベネヅエラ、米国に
世界一という鉱脈が次々、発見されている。実際、世界に必要なトリウムは多くて150万
トン。既に軍用などに人類が掘り出したウラン量は150万トン、それより数倍あるのがト
リウム。海水に溶けない。
小野:古川先生にエールを送りたい。エネルギー資源には3つの基本がある。
第1に日本では認識が薄いが、化石燃料の生産ピーク問題がある。とりわけ石油は200
5年から横ばい、ピーク状態が来ている。石油とガスを合わせても、2010年すぎに生
産ピークを覚悟しないといけない。埋蔵量が問題ではなく、生産ピークが問題。
第2に石油が乏しくなると、エネルギー収支比が問題になってくる。得られる回収エネル
ギーと投入エネルギーの比率である。とうもろこしエタノールは1.4で成立しなくなる。
その意味でも溶融塩炉はエネルギーの本命になりうる。効率高いし、燃料製造にエネルギー
がかからない。再処理も化学プロセスだけで所要エネルギーが小さくて済む。
3番目に認識していただきたいのは自然エネルギーの限度問題だ。エネルギー資源の3条
件というのは、濃集している。大量にある。経済的に回収できる。この3つだ。
ところが太陽光、風力というのは濃集していない。希薄なエネルギーだ。つまり間欠性、
とぎれとぎれになるということは、避けられない。それは技術が発達しても昼と夜はある
し、風が吹かない時もある。アイルランドの風力発電でも顕著なのだが、風力が毎日、変
動する。2月のはじめには7日ぐらい、なぎの状態になっている。こういうのが風力発電
だ。これをどう補うかというと火力発電しかない。石油火力とか天然ガス火力とか、急速
に立ち上がって、急速に止めるといった発電のバックアップがあって初めて成り立つ。ス
ペインでは2000万キロワットの風力発電ができている。だがそれを建てるにあたって、
2500万キロワットの天然ガス火力を先行して作っている。それがあるがゆえに成り立っ
ている。
木下: 自分は32年間、固体燃料の研究をやってきて熔融塩炉研究に足を踏み入れて1年半
にすぎない。祖父が長崎県諫早の出身で親戚が被爆しているので核爆弾の問題を意識する。
さらに福島での原子力事故もあり、実現への条件は、まず原子力そのものが受け入れられ
ることだ。それには、一つは安全性。もう一つは放射能。とくに放射能を始末するシナリ
オが描けるかどうかだ。
古川: 吟味することが大切、熔融塩炉はR&D項目がすくない。固体燃料だとR&D事項多く、
複雑な燃料をマネージする経費が底知れない。だからより単純なものが良い。ミニフジか
ら現実化をすべきで、確認しながら、世界に役立たせてほしい。
「実現の条件をクリアさせる」
「なぜプライオリティーを高く置いているのか背景と理由」
木下: 技術者はえてして、安全性を後回しにして、夢を追いかける。原子炉の種類にはガス
炉、水を使った炉、液体金属を使った炉、溶融塩炉がある。水をつかった炉では水が蒸
発して無くなるという問題があるが、水を使わない炉ではそれはない。なかでも溶融塩炉
は水と化学反応しないのでイザという時は水で冷却できる。
今度の福島の事故で明らかになったのは、原子炉の炉心が溶けてしまってからの対応が重
要ということだ。溶融塩炉では、最初から炉心が溶けた状態で運転しているので、対応策
が万全になっている。
先週、中国から帰国した。トリウム溶融塩炉開発は2月に政府が承認し、春に大きな予算
が付けられてスタートし国家プロジェクトとして上海応用物理学研究所が総力をあげてい
る。訪問したときはその最初の節目で、中国のお月見にあわせて打ち上げをしている最中
だった。いまの中国には60年代の日本と同じような勢いと集中力がある。当時の日本での
新幹線技術開発、鉄道総研が総力をあげてやったのと同じような人数と予算規模ではない
かと感じている。さらに、彼らの研究所の面子がかかっている。 この開発を上海でやっ
ていることには大きな意味があると思う。上海というのは中国の一番外側にある。外側で
は軍事研究はやらない。上海そのものがそれにむかない場所だ。基本的スタンスとして平
和研究である、学術研究研をベースにした自主研究だ。これが中国の溶融塩炉にもってい
るスタンスである。
小野: 民主党のエネルギー政策は3本柱。省エネ、再生可能エネルギー、化石燃料のクリー
ン化の3つ。化石燃料クリーン化はCO2回収貯留のことで未だに商業化の見込みはない。
省エネで電力需要はどうか、省エネは電化で可能となる。自動車をガソリンから電気に変
えたらエネルギー消費は2分の1以下になる。それから家庭や産業で使う熱、これをヒー
トポンプを使って空中とか地中の熱を利用すると半分以下になる。
省エネというのはエネルギー効率を上げることで、節電とは違う。この省エネは従来のエ
ネルギー源を電力に変えることで可能となる。
再生可能電源は基幹電源にはなりえない。バックアップが必要で、このバックアップの発容
量以上にはなりえない宿命がある。
だからこれをエネルギー政策の柱にするのはおかしい。民主党政権がいうのが電力自由化
と発送電分離、また地方分散型エネルギーとして自然エネルギーを使うことである。
スペインは一国単位で独占的な送電業者がいて、法律によって強制命令権がある。風力を
まず入れる。その風力が足りないときには、ガス火力に対してお前のところ、発電しろ。
風力が余るときは、お前のところは止めろという指令を出している。それで初めてできる
ことだ。分散型にしたら、パイが小さくなるだけでほとんど不可能になる。
スマートグリッドとかいろいろ言われているが、別に電力を生むわけではなく正直、私は
ピンとこない。 その意味で熔融塩炉は負荷に応じて変えられる分散型電源として意味が
出てくると思う。再生可能エネルギーでこれをやろうとしたら無理だ。ドイツは、エネル
ギー的には破綻して行かざるをえない。
古川: 過去の原子力戦略には、軍用目的が裏にあった。平和利用というのは、隠れ蓑だった。
これは否定できない。イラン、イラク、北朝鮮などの対応をみても、軍用がからまってい
るのは否定できない。その意味で、国家が関わりすぎている。エネルギー産業というのは
社会に深くくいこんだ基礎構造だ。民間ががっちり組んで本当の産業にしなければ、本命
にはならない。純粋な産業として民間主体でいけば、今の原発が本命になるはずがなかっ
た。“安価につく”究極兵器としての核兵器戦略があった。これは日本では禁句になって
いるが、世界の常識だ。
民間主導でないといけない。ただ国家のバックアップが必要なのも自明である。技術とい
うものは生きているもの。理屈や机上の論理ではない。人間の体についているものでない
と技術といえない。その意味では技術というのは、汗水がつくりだすもので、何であれ過
去現在に苦労して得た知恵が、よりよい次の技術を生み出す母体となる。
「実現への決め手は何か」
古川:具体策は1万kW発電のミニフジの実用化だ。きっちりしたプロジェクト体制つくること
が重要。菅さんはお粗末だった。プロジェクトリーダー設定がすべてだ。責任の所在、責
任者がはっきりしていないとだめ。さらに資金の質がよくないとだめ。本当の産業を作る
べき。熔融塩炉は60年の時間を無駄にしたが、民活でできる。一国のためのものでは意
味をもたない。人類のため地球のための技術であり、世界の世論が支持してくれるような
発信をしないといけない。その意味では市民運動であるべきだと思う。
質問:「核変換技術使えば、非放射性物質に変えられるか?」
古川: 処理は簡単ではない。資金を投入すれば、この系でできないものはあまりない。し
かし、経済合理性とは何かと考えないとナンセンスになる。別途、ゆっくり論議すべ
きである。あらゆる技術は消滅期に移る。この炉も今世紀後半にそうなるが、その時、
有効にこの体系が核変換に利用でき、新しい技術の時代に移る。
質問:「崩壊熱の管理が容易なのか?」
古川: この炉は小型であり、より容易である。熔融塩炉というのは固体燃料が熔融したも
のと誤解されているむきもあるが、10倍低濃度である上に、それ自体が熱媒体で熱の
処理に最適なものだ。熱除去はできる。
質問:「地震に対する安全性は?」
木下: 貞観地震の歴史をみると、12年後くらいに先の関東大震災より大きな地震がくる。
地震に対してはいろいろなシナリオを考える必要がある。炉心の容器、配管、などが
すべてが破断したり漏れたりする状況を想定しなければならない。熔融塩炉でも水蒸
気爆発の可能性はある。炉心を冷やす必要が生じたときは水をどの時点で入れるかが
問題だ。建物や格納容器が破壊されたなかでの、津波、土砂降りの雨も想定しないと
いけない。いずれにせよ、軽水発電炉と熔融塩炉をストレステストで比較することに
は意味がある。
質問:「相対的安全と言う理解でいいのか?」
古川: 一般論で議論しても意味がない。技術というのは、作りあげていくものであり、そ
の作られた個々の具体的な「物」について厳しく深く論議すべきである。これは原理
的に安全である。
質問:「トリウムは有限な資源か?」
古川:見てのとおり、地球は有限だ。ただ地球というのはすさまじく大きい。資源の有限を
説いたローマクラブは犯罪的だ。地球は恐ろしく大きいだけでなく、人間はその実態
をいくらも知らない。一方、「大気」は非常に少量かつ脆弱な実態物であるので、錯
覚があるのではないか?
質問:「放射性廃棄物をまったく出さない?」
古川:何も出さないものなどはない。何かしたら出るものがある。ただし超寿命で厄介な超
ウラン元素類は、1000分の1か、万分の1しか生まれない。できるだけ作らないこと。
他の物も比較的少量となり対処できる。その意味では非常に有利だ。
閉会の辞 未来創庵庵主・ デザイナー 一色 宏
大変な嵐が近づいているようですが、このような中で大変熱のあるエネルギー政策フォーラム
を開催できましたことを本当に嬉しく思います。本当に皆さんお忙しい中、このように集って
頂きまして心より感謝を申し上げます。
そして今日は西澤潤一先生のお話から始まりまして古川先生の示唆にとんだ、トリウム熔融塩
炉の開発に尽力されてこられた経緯の講話に大変感動し、今、現実味をもって再認識されるこ
とを予感します。まさに嵐のような今の時代が大きく変わろうとしている状況を示しておりま
すが、実は嵐の後に架かる虹が最も美しいと言われています。何かそのような状況をシンボラ
イズされているのではないかと思います。
本日の受付に、古川先生の著書がございますが、その巻末に私もお会いしておりました西堀栄
三郎先生の「技士道」15ヶ条というのがございまして、私はこの中に古川先生の本当に根本
としていることが全部出ているような感じが致します。
まずその3条には「技術に携わる者は、人倫に背く目的には毅然とした態度で臨み、いかなる
ことがあっても屈してはならない。」
また14条には「技術に携わる者は、技術の結果が未来社会や子々孫々にいかに影響を及ぼす
か、公害、安全、資源などから洞察、予見する。」
そして15条には「技術に携わる者は、勇気をもち、常に新しい技術の開発に精進する。」本
当にこのような気持ちで古川先生、進んでいらっしゃることを感じます。
参加して頂いた皆様方、本当に熱を持って語って頂きました古川先生、西澤先生、そしてパネ
ラーの諸先生と、皆様方に対して最後に感謝の印として詩聖タゴールの一詩を捧げます。
心が怖れをいだかず、頭が毅然(きぜん)と高く保たれているところ。
知識が自由であるところ。
世界が 狭い国家の壁でばらばらに引き裂かれていないところ。
言葉が 真理の深みから湧きいづるところ。
たゆみない努力が 完成に向かって両腕をさしのべるところ。
理性の清い流れが 形骸化した因習の干からびた砂漠の砂に吸い
込まれ 道を失うことのないところ。
心が ますます広がりゆく思想と行動へと、おんみの手で導かれ
前進するところ ――――
そのような自由の天国へと、
父よ、我が地球を目覚ましたまえ!
本当に今日は足元の悪い中、ご参画頂きありがとうございました。
以 上
☆(文責:事務局、西澤氏を除き発言者の校正頂いたものです。他への転送を
はしばらく御遠慮下さい。)月刊誌に掲載される予定です。
シンポジュームを終えて:感想:講師、パネラー、参加者、バーチャル参加者
の補足、感想、ご意見、公募中!ぜひおよせください。
詳細 ⇒ http://www.e-gci.org/jpef/jepf.html 漸次更新中
大脇 拝