2011.9.21JEPFコメント 小野章昌
2010.4.10 小野章昌
意見:「2020 年までに原発8基の新設を謳っているが幻想ではないか。
リードタイムを考えても、経済性を考えても疑問である。」
反論:麻生政権の温暖化対策(2005 年比15%削減)、鳩山政権の政策
(1990 年比25%削減)いずれにおいても8 基新設は大前提とされ
ているものである。実際にCO2 削減量は8,400 万トンという最大の
貢献を期待され、組込まれているものであることを先ず認識いただ
く必要があると思う。この8 基はすべてが電力会社の事業計画に
入っているものであり、既に建設に入っているものも2 基存在して
いる。残る6 基も程度の差こそあれ建設準備が進められて来ている
ものであり、建設期間が4 年程度であることを考えると、リード
タイムからの不安はないと言える。原子力発電の経済性は一番優れ
ていることが電気事業連合会の資料でも示されている。原子力5.3
円/キロワット時、石炭5.7 円、天然ガス6.2円、石油10.7 円、
水力11.9 円である(電気事業連合会「原子力2009」)。一方、
ご存知のように太陽光発電のコストは買取価格48 円が示している
通りである。
意見:「先日六ヶ所の再処理工場を見学した。核の廃棄物の問題が
解決されていない所でどんどん原発を増やすということは、
別の問題を後送りしているだけと思う。」
反論:六ヶ所再処理工場はほぼ完成を見ており、運転開始直前の状態で
ある。米国のように使用済燃料をそのまま貯蔵し、最終処分するやり
方(ワンス・スルー)では廃棄物の量が多くなり、放射能レベルも
高くなって、我国の国土には相応しくない。再処理工場ができるお陰
で廃棄物の量と放射能レベルを下げ、燃料をリサイクルすることが
できるようになる。問題の先送りではなく、国情に合った形での燃料
の有効利用を目指しているのである。
意見:「エネルギー対策、温暖化対策で日本などの先進国が原発を
進めると、途上国にそれをやるなとは言えず、原発を持って
欲しくない国にも原発が建ってしまう。」
反論:原子力の平和利用すなわち原子力発電によるエネルギー確保は世界
のどの国も享受する権利があろう。枝廣氏はイランのような軍事利用
を目指す国のことを指しているのであろうが、商業発電炉で軍事物質
を作ることは不可能であり、ウラン濃縮(平和利用)を隠れ蓑に使って
軍事展開を図ろうとするいわば確信犯的な核指向国がイランと言えよう。
IAEAの査察を受入れる平和利用目的の国に日本が原発建設で協力する
のは有意義な国際協力ではなかろうか。
意見:「日本では地震が起り、そのたびに原発が止まって、CO2が増
えるのでは困る。」
反論:中越沖地震で柏崎刈羽の運転中の原子炉全てが安全に停止状態に
入った例に見るように、日本の原子力発電所は世界最先端の耐震
性能を備えている。柏崎刈羽では安全性を最重視して運転再開
には十分の時間を取っているが、その間は電力不足が生じない
よう予備の火力発電で補っている。
これは電力会社の経営(収益)にマイナスの影響を与えるものでは
あるが,日本のエネルギー供給に影響を与える結果とはなっていない。
CO2が短期的に増えることを心配されているが、この国でもし原子力
発電がなかったら、5,000万KWの火力発電所で常時CO2を出さなければ
ならない状況となり、CO2発生量は1.75億トン増加しているはずである。
意見:「CCSは直ぐ使えるわけではない。これから実証して行こうという
段階である。『それがきっと使えるであろうから』ということで石炭
火力を増強するというのはいかがなものか。強く反対したい。」
同意:現在実証されていない技術を2020年とか2030年までの計画に組込む
のは無理がある。
意見:「石油価格が2030年に3倍になるとしたら我国が支払う金額は
45兆円になる。日本の経済、国家はどうなるであろうか?」
同意:第一次、第二次石油ショックの際に先達が原子力発電の導入を図り、
拡大に努めたのも同じ惧れを抱いたからである。世界の原油生産量が
既に頭打ちの状態を呈していること(第三次オイルショックは今直ぐ
にでも起り得る)を冷静に認識し,具体的な対策を建てる必要がある。
意見:「再生可能エネルギーは燃料代はタダ。雇用を創出する力も大き
い。地域の活性化という点でも極めて役に立つ。世界中が再生可能
エネルギーに向かっているのであるから,グローバルな勝機もある。」
反論:再生可能エネルギーについては具体的な数字を検証される必要がある
と思う。ムードだけで主張されているように思えてならない。ドイツの
ルール大学を中心とするライン・ヴェストファーレン経済研究協会
(RWI)が2009年11月に発表した論文を見ると、10年近い経験を経たド
イツのフィード・イン・タリフ(FIT)制度による再生可能エネルギー
の推進は全くの失敗に終わっていることを示している。すなわち、
仮に今年この制度を取止めたとしても消費者側には今後20年間にわた
って10兆円におよぶ債務(負担)が残ることになる。
・ CO2削減コストは太陽光で市場価格(18ユーロ/トン)の40倍、風力発電
で3倍という高コストについている。
・ 国内雇用は他雇用からの移転に過ぎない。太陽電池の半数が中国やアジア
から輸入されている。太陽光従事者48,000人に純増コストを割振ると1人当
り2,200万円の補助が行われたと同等である。
・ エネルギー・セキュリティー増大がメリットとされているが、間欠性を補
うためにガス火力を運転維持する必要があり、年間700億円の費用が掛かっ
ている。ガスの36%はロシアに依存しており、セキュリティーはむしろ下
がっている。
・ 技術イノベーションのために購入価格の逓減法を採り入れているが、投資
家は現在の技術を用いて高い価格で長期収入を確定しようとして、技術改
善にはつながっていない。
・ 揺籃期の技術については、政府は大規模な生産を推進するよりも研究開発
に投資する方が効率は高い。特に太陽光発電についてそう言える。
このようにFITの結果は数字的にすでに出ており、日本が後追いする理由が見
付からない。
意見:「再生可能エネルギーはあくまでも小さなことしかできないと日本
では考えられているが、ドイツでは需要の16%ほどを賄っている。
日本でも本気でやればかなりの需要をみたせるのではないか。」
反論:ドイツの風力発電が発電量に占める割合は6.4%、太陽光が占める
割合は0.6%であり(IEA「Renewables Information 2009」)、両者を
合わせても7%に留まっている。残りは昔からの水力発電や都市ゴミ発電
などであることを認識する必要がある。スペインでは2009年の新規太陽光
発電容量を従来の1/4 以下に絞った例を見ても分かるように、グリッ
参考までにケンブリッジ大学のデイビッド・マッケイ教授は最近の著書
「Sustainable Energy without the Hot Air」の中で、再生可能エネル
ギーについては数量的な把握が非常に重要であることを強調している。
彼の分析によると、長期的に英国の南向きの屋根全てに太陽電池を設置
してもその容量は4,800万KWに過ぎず、発電される電力は需要の4%(1人
当り2KWH/日)に過ぎないことを指摘している。風力発電も実際的な限度
は需要量の8%とされている。数量的把握が大切なことを理解いただくた
めに是非この著書をお読みいただきたい。URL:www.withouthotair.com
から無料ダウンロードできるのでお奨めする。
意見:「電力を中央集約型で作って送配電するのではなく、これから
は分散エネルギーをネットワーク型でつないで行く方向へシフト
するであろう。その方がずっと効率的で,安心,スマートである。」
反論:電力事業の歴史を見れば、明治・大正時代の分散型電源(地方の多くの
町村に小型水力発電所があった時代)から現在見るような9電力体制
(大きな括りによる集中型発電と送配電)に移行してきたことが分かる。
これは経済原理がもたらした自然の動きであり、逆行させることは市場
経済に反する動きとなろう。風力・太陽光発電を採り入れたマイクログ
リッドの可能性を否定する者ではないが、都市を含めた広域を考えた場
合には集中型の方がはるかにメリットは大きいであろう。現に小規模マ
イクログリッドの実験が試みられた八戸市や京丹後市のプロジェクトを
見ると、いずれもバイオガスを利用する火力発電と風力発電、太陽光発
電を組合わせたものであるが、実際の電力需要に同時同量で応じるには
火力発電が中心とならざるを得ない結果となっている。マイクログリッ
ドが効率的で安心というのは実証を伴っていない頭の中だけの考えでは
ないだろうか。スマートグリッドについても同じ危険が潜んでいる。
意見:「世の中はコンピューターでもネットワークでも通信でも、
分散ネットワーク型になっていて、その方がずっと効率が
良い。エネルギーも今後そのような時代に移って行く。」
反論:バーチャルな存在である情報やインターネットと物理的な存在で
あるエネルギーを混同するのは大変危険である。インターネットは
分散型で良いが、それを支えるためには膨大なサーバーが必要であり、
多くの電力を消費している。エネルギーは物理的な生産を必要とする
ものであり、分散すれば経済性が増すというものではない(上述の
水力発電の歴史に見る通り)。太陽光、風力などの自然エネルギーは
希薄なエネルギーであるだけにそれを集めるためにエネルギーを必要
とし、立地は分散を余儀なくされ、移送にもエネルギーを必要とする。
従って基幹電力にはなり得ないものと言えよう。
意見:「運輸部門でモーダルシフトを考えるなら、東海道物流新幹線を
作るぐらいのことが必要である。2兆円ぐらい掛かるというが
数年で元が取れるのではないかと思う。もし今の新幹線が
なかったら、車で移動していたとしたら、どれくらい日本は
大変であったことだろうか。数十年前に大変な反対の中で
東海道新幹線が作られたことに私達は感謝したい。」
同意:その通りと思う。原子力発電所も同じことで、先達はあらゆる困難を
押して5,000万KWの発電所を建設して来た。そのお陰で電力の1/3を賄う
ことができ、1.75億トンのCO2を削減できているのである。貨物新幹線と
同様に新規原子力発電所を建設しておくことが、化石燃料枯渇に備える
大きな準備となろう。
意見:「電力といったら、『決して停電しちゃいけない』と私達は思い
込んでいる。しかしそのためにどれだけのさまざまなバッファー
が必要か。もしくは自然エネルギーが入り難くなっていることか。
常に最高の性能のものではなく、必要なところ、適材適所で使っ
ていけるように変えていく必要があると思う。例えば、絶対に
落ちてはいけない電力は松、時々落ちてもいい冷蔵庫用などは
竹というようにである。」
反論:電気の物理的性質を全く理解していない人の意見である。交流発
電機で発電したものはそれが石炭火力であろうと、原子力であろうと、
水力であろうと同じである。良く「グリーン電力」などというが、
これは電力会社(あるいは配電会社)が変動する自然エネルギー起源
の電力を受入れて、実際には基幹電力から供給しているものであり、
いわば人為的な「見なし」の制度と言えよう。電気は色を付けることが
出来ないものであり、また一瞬といえども止まっては困るものである。
例に挙げられた冷蔵庫が瞬時停電に耐えられるとしても、照明は消え、
電話は不通になり、コンピューターはダウンするのであって、安定供給
という要素が最も大切なのが電力なのである。
意見具申者:小野章昌:住所:〒247-0071 神奈川県鎌倉市玉縄5-26-1
Tel:0467-47-5384 Fax:046-47-5385, e-mail; andyono@suite.plala.or.jp
原子力部会報告書(案)に対する会員有志のコメント 2006年8月
「総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会報告書(案)」の意見
公募に対し、本会会員が提出した意見を集約したものです。(意見公募期間
平成18年6月21日〜7月20日)
小野昌章氏の提出意見書
米国、英国で原子力ルネッサンスを迎えつつあるこの時期に、我国原子力政策
の基本方針を網羅した「原子力立国計画」を策定されていることに敬意を表しま
す。以下4点に絞って意見を述べさせていただきます。
[意見]石油・天然ガスの資源的制約についてはもう少し切迫感を持って
対処する必要がある。
[該当箇所]第2部、第1章何故原子力が必要なのか、第1節2.石油および天然
ガスの現状と見通し、とりわけ「長期的な資源量の制約可能性を論じるピーク
オイル論が妥当するか否かは別にして、・・・・」の部分)
[理由]石油の生産ピークが近いことを覚悟して腰の座ったエネルギー政策を
立案して行く必要があろう。背景としては:
世界の主要産油国48ヶ国のうち33ヶ国ではすでに石油生産ピークを過ぎている。
2大産油国であるサウジアラビアもロシアも生産の初期段階から二次生産(油
層に対する水の注入)を行っており、地下の圧力によって回収できる安価な石
油が乏しくなりつつある。
石油・ガスの資源データが公表されておらず、透明性に欠けることは大きな問
題であり、今回のロシアG8首脳会議でも取り上げられている。その一方で国際
エネルギー機関(IEA)は「2030年以前の石油生産ピークはない」と決め付け
ている。データがないのにどうしてそのように断定できるのか、大きな矛盾で
ある。IEAは2000年に発表された米国地質調査所(USGS)の資源量推定値をそ
のベースとしているが、USGS推定値そのものの妥当性が揺らいでいる。USGSは
1997年時点のデータを使用して以後50年間に期待される「新規発見量」として
7,300億バレル、「埋蔵量成長」として6,900億バレル、合計で1兆4,200億バレ
ルを計上しているが、10年近くを経た現在、発見量、成長量ともに年間期待量
の何分の一にも達していないことが判明している。発見のピークは1960年代に
過ぎており、既存資源の成長もほとんど見られていない。
既存油田の減耗率は例えばサウジアラビアの場合年間6%と言われている(IEA
「2005年世界エネルギー見通し」)。新規油田開発の情報は重視されるが、既
存油田の減耗率は軽視されている。サウジアラビアと雖も現在の生産レベルを
維持するのがやっとであろう。
新規油田の開発はアフリカや南米の深海に移っている。これは技術上難しい北
極圏を除き、地球上に残された最後の対象区域であろう。現に史上最高の利益
を上げているメージャー・オイルも新規の石油探査よりも天然ガスの開発に力
点を移している。
[意見]ウラン資源確保は民間の実力を付ける方向で
[該当箇所]第3部、第2章、第4節ウラン資源確保戦略、3.我国として必要と
される対応、@石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による民間企業の
探鉱・権益取得に対するリスク・マネー供給等の活用、B石油天然ガス・金属
鉱物資源機構は、日本原子力研究開発機構と協力し、ウラン探鉱に係る人的知
見や技術的蓄積を拡大)
[意見の内容と理由]
7月13日電気新聞報道によれば、JOGMECによる具体的支援法は電源特会を財源
とする「補助金」で07年度予算は数十億円となっている。世界のウラン業界では
民間企業が主導的役割を果たしており、探鉱および開発技術に乏しい我国企業
としては、実際には外国企業と共同して、探鉱開発を手掛ける必要が出て来よ
う。そうすることにより企業としての経験を積み、技術的能力や判断を蓄積し
て行くことができる。その意味で我国非鉄金属企業の参加が欠くことのできな
いものと言えよう。
1970年代には金属鉱業事業団による「ウラン探鉱成功払い融資制度」が民間参
入を惹起したことを思い出す。この制度の下では「プロジェクト」ごとに会社
を作り探鉱費の50%の融資を受ける。そして成功の暁には年賦で元本を返済す
るが、失敗した場合には会社を解散することにより元本返済義務を免れる仕組
みになっていた。民間にとって単純な「補助金」は甘い砂糖であるが、真剣に
リスクを取って取組む覚悟が希薄になることも懸念される。またプロジェクト
に参加する際に、探鉱費のみならず最初の鉱区権取得にも補助金が出されると
なると、その鉱区や権益の評価がどのように行われるのか、客観性のある基準
作りが難しいのではないかと思われる。
従って、民間企業を甘やかすことなく、実力を養成させるのが中長期で見た最
善の策と考えられ、官が前面に出て技術までコントロールすることには疑問を
抱かざるを得ない。さはさりながら、1970年代には米国のほとんどの電力会社
やメジャー・オイルがウラン探鉱開発に乗り出した過去の経緯を考えると、彼
らが動く前に、我国として早期の対策を立てて行くことには諸手を挙げて賛成
したい。
[意見]外国高速炉計画との整合性を
[該当箇所]第3部、第3章高速増殖炉サイクルの早期実用化)
[意見の内容と理由]フランスでは廃棄物法に基づき2020年に実証高速炉開発、
米国ではGNEP計画に基づき2023年に実証炉開発を計画している。何れもマイナー
・アクチニドなどの核種変換を目指す「バーナー炉」と言われている。我国の
FBRサイクルは5者協議会(経産省、文科省、電力、メーカー、JAEA)で今後検
討されると報じられているが(電気新聞7月14日)、外国とどのように歩調を
合わせて行くか(特に我国としてのバーナー炉の取り組み)をこの原子力立国計
画にも盛り込んだ方が良いのではないかと愚考する。
[意見]ロシアとの二国間協定を
[該当箇所]第3部、第5章我国原子力産業の国際展開支援、第3節国際展開支
援策、(7)二国間協力協定等の枠組み作り
[意見の内容と理由]米ブッシュ政権は、従来イランに対する原子力支援問題
でロシアとの協力協定締結に否定的な立場を取ってきたが、今回急に政策を変
えてロシアとの二国間協力協定締結に向けて舵を切った。
日本としてもロシアとの原子力協力協定締結を急ぐべきと考える。特にウラン
濃縮の分野では(従来はロシアにフィード・ウランを持ち込めなかったが、米
国が認めるようになれば、カナダ、オーストラリアの資源国も追随すると考え
られ)ロシアに賃濃縮を依頼できるようになり、供給先の多様化と今後上昇が
予測される価格面でのバーゲニング・パワー増大が期待される。また回収ウラ
ンの再濃縮依頼や、濃縮テイル(劣化ウラン)の再濃縮についても経済性が出て
くればその可能性が出て来よう。米国電力がそのような利益を受けることが可
能になるのであるなら、日本電力の可能性を広げるためにも、日露原子力協力
協定締結についてここで明示いただければと思う。