市民国連創出フォーラム 基調講演レジュメ  2005年11月3日
     講演者 杉下恒夫 (ジャーナリスト・茨城大学人文学部教授)
                           
「NGO・NPOの世紀」 

  国連などの場において市場経済下の民主的国家における社会の行動主体を「政府および
  政府間機関」「民間企業・経済団体」「市民社会」の3つに分類することがある。
   この中で「市民社会」には経済活動以外を行う各種の行動を行う多様な非政府アクターが含まれる。
  具体的には選挙によって選ばれた議員たちから構成され国や地方の議会、直接選挙によって
  選出された首長に率いられ、市民生活に直結した行政を司る地方自治体などがあるが、
   代表的なアクターはNGO・NPOである。

   21世紀は小さな政府に変わる市民が主役となる時代であり、「政府および政府間機関」の役割が
  減少するのに対し、NGOの責務は増大するので、良質のNGOを持つ国のみが民主的で公平な社会を
  築くことが出来るとされる。NGO・NPOの役割が拡大するもう一つの社会変化はIT技術、運輸交通手段の
  飛躍的発展などによりグローバル化した21世紀の地球に生まれた巨大空間の存在だ。
    新たに生まれた巨大空間の中には既存の国家や国際機関などだけではカバーしきれない諸問題が
   詰まっている。国内においては少子・高齢化問題、地域の環境破壊・保全問題、防犯対策などであり、
   国際社会においては貿易摩擦などの世界経済の問題、テロなどの治安問題、政治的な民族紛争の解決、
   予防外交などから難民、地球環境、人口、食糧、新感染症、国際犯罪対策などだ。 
    こうした地球に新たなに生まれているスペースを政府、国際機関と協働して埋める存在として期待を集めて
   いるのがNGO・NPOだ。NGO・NPOの持つ強みは既存の組織が長い歴史のしがらみに縛られて動きにハンディを
   抱えているのに対し、NGO・NPOは自由な中立的な立場で行動できるという強みを持っている。
    また既存の組織に比べてフットワークが良く、草の根的な小案件にも的確に対応出来る利点もある。 

    以上のような社会情勢の変革から21世紀に民主的で安定した国家の中で安心して生きたいと願うなら
   自分たちの意見の代弁者だけでなく、実行主体としてのNGOを育成して支えることが欠かせない。
   今後、日本にどれだけ多くの力のあるNGO・NPOを育てることができるかによってわれわれの未来は
   明るくも暗くもなるだろう。

1、国際社会の発言者となったNGOの歴史

   ・国連憲章71条とNGO条項
    「経済社会理事会は権限内にある事項に関係ある民間団体(NGO)と協議するため
    適当な取り決めを行うことが出来る」

   ・サンフランシスコ会議(国際機構に関する連合国会議)で諮問的地位を与えられ、
     アメリカ政府代表団に加わった42の米国NGO

   ・70年代から国連以外でも国際会議でNGOに発言を許させる機会が多くなったNGO

   ・92年、リオで開催された「地球サミット」でNGOが国際社会での発言者としての地位を固めた。

   ・以後、94年のカイロの国際人口開発会議、95年、コペンハーゲンの国連社会開発サミット、
    95年北京には6000人の政府代表に対し4000人のNGOが参加。

   ・取りまとめにNGOが貢献した97年の京都議定書

   ・NGOが左右した99年シアトルでの世界貿易機関閣僚会議。

   ・2000年の沖縄サミットでは首脳会議の事前に世界のNGO代表との意見交換。

   ・2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミットWSSD)では
   政府関係者9101人に対しNGOは8,227人参加、頻繁にシンポジウムを開催するなど政府と対等な一方の主役となった。

2、今後、国際社会でNGOに期待される仕事

   ・平和構築・平和の定着 政治を離れた中立的仲介者。予防外交の担い手。
             地雷除去、兵士の社会復帰支援など
   ・地球環境保全
   ・緊急人道支援 亡命支援NGO「北朝鮮難民救済基金」などの国交のない国への活動

   ・難民・国内避難民救援 もともと実施手段をもたないUNHCRの実働部隊としての責務。難民条約でUNHCRが救援しにくい国内避難民の救済。

   ・人権 非民主的国家における人権弾圧など外交ルートによる解決の糸口を作る。
    過去の成果としては南アフリカのアパルトヘイト撤廃への貢献がある。

   ・女性(ジェンダー)問題 途上国に限らず世界全般で見られる低い女性の地位に対する世界的運動のリーダー

   ・軍縮・核兵器廃絶  核保有国の意向で決まる国家間交渉に政治を離れた市民の声を伝達者。

   ・貧困撲滅、国連ミレニアム開発目標(MDGs)達成に政府、国連機関との協力

3、国内におけるNGO・NPOの役割

   ・高齢者対策などの社会福祉
   ・教育分野でのコミュニティリーダー
   ・地域環境保全
   ・防犯

4、NGO・NPO活動の問題点

   ・国際社会、特に開発途上国における低いNGOの認知度 
    NGOを反政府団体とみなす国も多い。

   ・資金不足 資金不足から国や国際機関の資金を頼ることで独自性の維持が難しい。

   ・不備な協力体制
   NGO共通の欠点であるが、唯我独尊的で他のNGOとの協力体制を構築しにくい。
   ・ 各NGOのイデオロギーと中立性の矛盾

   ・危機管理の難しさ 危機管理には十分な対策がなされている国連職員ですら過去10年で
    職務中に200人の犠牲者を出している。国連は治安対策が十分でないNGOの犠牲者数は
    それを上回ると推計している。さらに途上国などで活動するNGOの事件で地元警察が適切な
    捜査をしないケースも多い。

    ・下位パートナー、NGOが国際社会で政府・国際機関の仕事を分担する対等なパートナーとなる
     ためには政府、国際機関などが持つ情報、資材を完全に共有しなければならない。
     しかし、まだ、政府・国際機関側にその認識が低く、政府・国際機関の仕事の補完団体としてみる
     意識が抜けていない。

    ・人材確保の難しさ 給与,社会保証などNGO・NPOスタッフの待遇の悪さが良質な人材を流出させる。

    ・未熟な日本のシビルソサエティ:NGO・NPOを支えるのは明快な目的意識を持った市民社会の存在が
     欠かせないが、日本においては社会意識をもつ市民の組織が脆弱

5.質疑   


杉下恒夫氏履歴
 現住所 神奈川県鎌倉市、1942年東京生まれ。慶応義塾大学卒、67年読売新聞社入社。
東京本社社会部、外報部(シドニー支局長)、東京本社解説部次長、編集局選任部長。
2000年4月から茨城大学人文学部、同研究科教授(国際協力論)

その他の活動(現職)
00年4月〜   国際協力機構(JICA)客員国際協力専門員
04年7月〜   国際協力推進協会(APIC)理事
00年4月〜 NGO「日本フォスタープラン協会」理事、 00年11月〜 日本評価学会理事
04年4月〜 JICA外部有識者業績評価委員、 05年4月〜 日本紛争予防センター理事
05年4月〜 NGO「オイスカ」評議員、   05年4月〜慶応大学法学部非常勤講師
05年7月〜 JICA「調査研究懇談会」委員

過去の活動
97年12月〜99年11月 広島大学客員研究員、90年4月〜00年3月 外務省ODA懇談会委員、
96年4月〜99年3月 NTVニュース番組キャスター03年4月〜04年3月 兵庫県国際新戦略懇話会委員
97年3月〜00年3月 国際協力ジャーナリストの会代表 02年4月〜03年3月 慶応大学法学部非常勤講師業績
  
 著書 「ジャーナリストが歩いて見たODA」(単著95年 国際開発ジャーナル社)
   「NGOの世紀」(単著 00年 都市出版)
   「世界の中の日本」(単著 91年 学校副読本 国土社)
   「国際協力」 (監修・指導 03年 学研)
   「日本の外交政策の決定要因」(共著 99年 PHP研究所)
   「日本の国際開発協力」(共著 05年 日本評論社)
   「グローバル8つの物語」(共著 99年 国際開発ジャーナル社)  ほか

雑誌連載
外務省「国際協力プラザ」  「メディア時評」「ODA論考」00年4月より継続中
JICAホームページ コラム「ジャーナリストのつぶやき」 00年4月から継続中
現代用語の基礎知識 「NGO・NPO」欄          00年から継続中 
同       「NPO NGOガイド」         01年1月
国際開発ジャーナル 「ODA国内世論を読む」     96年4月〜98年3月
             「国会議員に聞く」        98年4月〜01年3月
   外交フォーラム   「NGO最前線」         97年1月〜00年1月
   暮らしのレポート  「開発と環境の調和を求めて」   93年4月〜95年3月
      
論文、その他 
三田評論     96年12月号  「自由に語る外交」(座談会)
外交フォーラム     「援助は外交の手段であるか」(95年2月)
            「長期的な開発戦略の見直し」(97年9月)
国際文化研修      「地域の国際化におけるNGO/・NPOの役割」03年3月
自治体国際化フォーラム 「自治体とNGOの連携・協働のあり方について」02年9月
            「自治体とNGOによる国際協力事例集」   05年3月 
   
JICAフロンティア 「楽園の苦悩」 00年5月
  同        「エイズの脅威と闘うために」  00年7月
  同        「南米で活躍する専門家たち」  00年12月
  同        「和平の確かなものに」     03年6月
  同        「ボスニアに見るイラク支援の教訓」  04年3月
国際開発ジャーナル 「民主化の道を切り開いた南米メディアの現状を追う」01年2月
  同         「学ぶことが多いボスニア復興支援」   03年12月
  同       「東チモールで試練迎える日本外交の「平和の定着」04年12月
Look JAPAN 「Working Together to Bridge the Gap」 98年11月
  同        「Road to Recovery」         02年3月
読売新聞      論点「スリランカ和平」         03年6月
デイリータイムズ  対アフリカODA成功の秘訣は日本型援助 05年6月

過去の活動
国会参考人出席: 参院国際問題調査会(95年2月)、同対外経済協力小委員会(98年2月)、
 参院決算委員会(05年2月22日)

ODA評価
     東チモール復興支援(04年9月)、 アルジェリア地震緊急援助隊(04年3月)
     ボスニア・ヘルツェゴビナ復興支援(03年8月)、スリランカ平和構築支援(03年3月)、
     トルコ二次評価(02年9月)、東南アジア漁業開発センター(01年3月)
その他多数 講演多数