吉田康彦先生はIAEAの広報部長時代、北鮮の核問題に取り組まれ、北鮮に動き
あれば、マスコミはこぞって吉田先生宅に取材に駆けつけますが、先生は単な
る学者としてだけでなく、人道的立場からNPOを立ち上げ北鮮の援助をされて
います。
政府の立場と民間の立場の違い、政府間の国益を超えた普遍的立場から活動
を続けるNGOの役割は今後益々大きな役割を果たすことでしょう。吉田先生は4
月には第11回目の訪朝を計画され、日本の古典的な文学書を平譲の外語大学へ
寄贈されます。このプロジェクトにご関心のある皆様は直接吉田先生へご連絡
ください。Tel:048-641-8203 ,Fax:048-647-6191, 携帯:090-8640-0088
なお北朝鮮情勢に関する最近著『北朝鮮を見る、聞く、歩く』を出版されてい
ます。末尾に読者感想文を添付します。
『北朝鮮を見る、聞く、歩く』 (平凡社新書)
吉田 康彦 (著) 239ページ 出版社: 平凡社 (2009/12)
内容(「BOOK」データベースより)
日本ではほとんど知られていない北朝鮮の文化・芸術・市民生活。われわれの
“隣人たち”は、何を見て、何を聞き、どのような生活をしているのだろうか。
北朝鮮の現代史、政治・経済情勢を織り込みながら解説する。確かな相互理解
のために―「金正日体制」を「文化」から読み解く。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
吉田 康彦1936年東京生まれ。東京大学文学部卒業。NHKジュネーヴ支局長・国
際局報道部次長を経て国連職員となり、ニューヨーク、ジュネーヴ、ウィーン
に10年間駐在。86‐89年IAEA(国際原子力機関)広報部長。帰国後、埼玉大学教
授。現在、大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員教授。日朝国交正
常化全国連絡会・放射線教育フォーラム顧問、核・エネルギー問題情報センター
常任理事 (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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掲載]週刊朝日2010年3月19日増大号 [評者]青木るえか
■北朝鮮より著者の素顔が気になる
読んでいて不思議な気持ちがじわじわと湧いてくる本である。
このご時世に北朝鮮の本。「これはいったい親北朝鮮なのか反北朝鮮なのか」と
身構える。この本はタイトルからいっても「ふつうの北朝鮮の姿を淡々と描くこと
によって北朝鮮への親しみを持たせる」本だろうと読み始めた。自分は「“反の人”
が嫌い」という主体性のない立場なので、親北朝鮮の本はそれなりに楽しんで読める。
が。この本は不思議だ。最初は北朝鮮の食生活から始まって(以前に読んだ韓国朝鮮
の食生活の本もこれも、やはりすごく朝鮮半島の食べ物はうまそうである)、映画やら
サーカスやら、教育のこととかマスメディアのこととか、ほんとに淡々と紹介している。
私はかねてより「金日成総合大学のレベルというのはどの程度のものなのか」が気に
なっていたので、そのあたりのことについても詳しく書いてあってよかった(しかし
平壌美術大学というものの存在をこの本で知り、いったいどのような美術教育をしてる
のかが今すごく気になっている)。その他、なんとなくナゾに思っていたことについて、
そんなことはたいしたことではありませんのです、という感じで書いてあるので、知識を
得るという点ではいろいろ役に立った。
しかし読めば読むほど、何かこう不思議な気分になっていくのだ。淡々と紹介される
北朝鮮の生活の中に、さらにまた淡々と北朝鮮への批判……というか不満がぽそっと入る。
ベストセラー本に対して「御用文学の域を出ないが」とか、いろいろな方面に対してそう
いう不満がぽこっぽこっとはさまる。しかし怒ってる感じでもない。またアリバイのため
に言っている感じでもない。
北朝鮮の知識を得るというよりも、この本を書いた人が何を考えているのかが気になって
北朝鮮どころじゃなくなる、という不思議な本だった。自分のことを書きたがる著者は
多いが、この人は外国のことだけ書いて、印象に残るのはこの人のことだけ。すごい。
北朝鮮を見る冷静な目, 2009/12/28 By Gori -
民主主義と共和国、国名で二つの嘘をついている朝鮮民主主義人民共和国。
その北朝鮮のガイド本だ。北の素顔と謳っているが、 そこには巧妙なミスリー
ドが仕掛けられている。 本文に曰く 「改革開放はまず食文化から」 「外国
人ばかりでなく市民の胃袋を満たしている」
改革開放を始める気はないし、国民が腹を満たす事はない。北朝鮮ものに耐性
のない人は注意して読むがいい。
“文明に侵されぬ”素朴な人々を知るための資料, 2010/1/18
By afpeace (モンゴル・ウランバートル市)
私が北朝鮮の人々と現地で接しながら心で反芻した大きなテーマが、近代文
明とくに物質文明を享受しようと世界各国が努力した結果、人類が何を得て何
を失ったか、でした。モンゴルの草原で人間同士の関わり少なく、慕わしくも
厳しい自然と常に向き合う遊牧民(現在も人口の四割程度占めるでしょう)た
ちに今日見出す価値は、人間本性の純朴さ。北は政治で閉ざされ情報で隔離さ
れているが、人間にはむしろやはり“文明に侵されぬ”素朴で牧歌的な性質が…。
それだからこそ南北「統一列車」試運転(2007年5月)で機関士が“感涙
にむせび”ゆく姿に偽りはなく、心動かされて国境や政治問題を超えその開通
の夢を叶えたい衝動に駆られます。映画『月尾島』(1982年)は朝鮮戦争
での米・マッカーサー仁川上陸作戦に最前線の同島で抵抗した北朝鮮軍・砲兵
中隊を描写。本土上陸遅延目的という後方支援無き自体必死の使命を葛藤甘受、
国家を想って前進健闘する人間としてのさまには、太平洋戦争期の硫黄島での
日本軍『硫黄島からの手紙』(2006六年)の模様が想起、時代と政治に翻弄
され前線で公的な目的に命を犠牲にする共通の運命に曝された人たちが偲ばれ
ます。様々な国を訪問し実際にその地に足を踏み入れていつも想うことは、メ
ディア・書物からの情報を通じ予め描いたイメージ以前に、目の前に映る「生
活に生きる人々の姿…」。“隣人”北朝鮮の文化・芸術・市民生活に焦点を当
てようとした本著は、人的交流稀にして日本との政治的対峙の中で肥大化した
同国のイメージに無関係に生きる、私の知る“文明に侵されぬ”素朴な人たち
のことを知る資料。しかしそういう彼らに想いを馳せると韓国亡命1万6千人
や中朝国境20万人の脱北者が全人口二千四百万人に比べて“多くはない”で
通り過ぎるのは悲し。先軍閉鎖体制の内外には随所に悲痛な市民の姿も見え隠
れするからです。表玄関からの描写から一歩踏み込む次作に期待。
異論は多いが、価値ある北朝鮮案内, 2010/1/11 By 革命人士
反北一色の国論の中、北との交流推進という異論を訴え続ける著者の存在は、
筋が通っているし、貴重だと思う。また、伝聞情報がまかり通る北報道で、実
際に北に行って見聞を深めた著者の記録。「国交回復で日本も儲かり、北の経
済、民生も豊かにする」「『拉致被害者は死んだ』という北の結論は覆らない」
など本文中に出る、著者の政治経済への展望に賛同する所はほとんどないが、
(「北の素顔」と帯にあっても、実際は外国人用に飾り立てたショーウインド
ウに過ぎないと思われるが)あまり見ることのない北朝鮮の芸術や、食、教育
などの活動状況(あくまで北の公式見解に沿ったものだが)を報告する。北に
好意的な論調が皆無になった我が国で、こうした北の日常や、一般人(平壌に
住むのは特権階級だが)への思想統制状況を知らせる報道自体がほとんどない
中、厳しい撮影規制に耐えて、多くの写真も掲載した本書には、今の北朝鮮、
平壌の一面を知らせる一定の価値がある。
本書は、いわゆる北礼賛本ではなく、客観性は担保されている。金親子に敬意
を払わせようとする点や反北世論で叩かれている著者に向かって宴席で日本の
反北論調を攻撃する所、金親子の有害無益な経済産業政策に批判的な部分もあ
る。しかし、多くの情報が発信する情報全てがプロパガンダという「北政府の
公式定義」に依拠した、と書かれている。プロパガンダを読み取る努力をしな
いと、誤った情報を伝える危険がある。真意を解読する努力をすべきではなかっ
たろうか。読み手も宣伝工作である可能性を意識して読むことを求められる。
ちなみに、p98で「マスゲームは和製英語で英米人には通用しない」とあるが、
英語版ウィキペディアでは「mass games」で立項されている。
他に類例を見ない良書, 2010/1/6 By 野口邦和 -
司馬遼太郎氏の長編歴史小説「坂の上の雲」を映像化したNHKスペシャルド
ラマが、2009年11月末から始まった。3部構成で全13回を3年にわたって放送す
るという。朝鮮半島を実効支配するために起こした日露戦争を「祖国防衛戦争」
と讃える同小説の映像化には、少なくない批判があると聞く。そもそも原作者
の司馬氏自身が生前、多くの映画会社やテレビ局から原作の映画化やドラマ化
の申し出を受けながら、すべて断ってきた経緯がある。原作を安易に映像化さ
れると、軍国主義を鼓舞しているかの如き誤解を受けかねないというのがその
理由であったという。今年は韓国併合(日本による朝鮮半島の植民地化)100
周年でもある。
時あたかも2009年12月、元IAEA広報部長、元埼玉大学教授の吉田康彦氏による
本書が刊行された。著者は1994年以来10回訪朝し、草の根の人道支援・文化交
流を続け現地事情に精通している。それだけに本書は通り一遍の北朝鮮ガイド
ブックではない。また、北朝鮮といえば拉致、核・ミサイル発射実験強行など
によって極悪非道の「ならず者国家」といったイメージが定着した感があるが、
本書は巷にあふれている北朝鮮ものでもない。他に類例を見ない良書であると
いってよい。 内容的には食文化(第一章)、映画(第二章)、オペラ・サー
カス・マスゲーム(第三章)、美術と世界遺産(第四章)、文学(第五章)、
教育とスポーツ(第六章)、観光資源と鉱物資源(第七章)、マスメディアと
交通事情(第八章)、旅のアラカルト(第九章)が紹介され、拉致、核・ミサ
イル発射実験の問題は最小限の情報と事実関係の記述にとどめられている。こ
れらの問題を詳しく知りたい読者は、著者による『「北朝鮮」再考のための60
章』を薦めたいとのことである。また、本文と区別して挿入されているゴシッ
ク体のコラムは、北朝鮮の歴史、政治経済情勢や最新事情などをつとめて客観
的に記述しており、これを読めば北朝鮮の過去と現在が理解できるようになっ
ている。
国連加盟192カ国の中で日本政府が唯一国交を結んでいない国が北朝鮮である。
北朝鮮など理解したくもないと日本政府は考えているのかも知れない。また、
そのように考える読者がいるかも知れない。しかし、拉致、核・ミサイル発射
実験問題で北朝鮮を如何に敵視し圧力を加えようと、問題の解決には繋がらな
い。この間の経緯がそれを完全に証明している。日本の安全保障の確保、経済
協力により得られる利益、貿易再開により得られる相互利益、北朝鮮の経済復
興への貢献、朝鮮民族との共生などを少しでも真面目に考えるならば、国交正
常化は避けて通れないはずだ。「一衣帯水の隣人なのだから平和共存をしてい
く以外に道はない」という著者の主張の正しさを、改めて実感させられる書で
ある。
注文はつきそうだが, 2010/2/13 By 東海 -
北朝鮮の主に日常の光景を解説する一冊。政治や外交面はさておいても、近く
て遠い北朝鮮の状況を知っておくことは、決して無益なことではないと思いま
す。わかりやすく書かれているので、北朝鮮に関する入門書として使えそうで
す。茶化すことなく、できるだけ中立性を保って記述しようと努力しているこ
とが伺えることも、良いですね。いろいろな思いを抜きに語ることが難しい題
材ですが、こういう書籍も必要でしょう。
ただし、北朝鮮の過去の行為や、外交に関する私見は、この書籍への評価をや
やこしくしています。厳しい批判を覚悟の上での記述だと思いますが、この書
籍では、それは余計だったのでは…。1 人中、0人の方が、「このレビューが参
考になった」と投票しています。 北朝鮮理解のための好著, 2010/1/25 By
太郎 "縺上繧" (埼玉) -
本書は1994年以降、訪朝10回を数える著者が北朝鮮の「素顔」を描いた好著
である。本書は決して北朝鮮の絶賛本ではない。北朝鮮という国の「特殊性」
については随所で述べられている。また、北朝鮮の食糧難やその構造的な問題
についても言及されている。といって、北朝鮮憎しの本ではない。朝鮮半島を
取り巻く国際環境についての厳しい現実を踏まえつつも、ほとんど日本では伝
えられてこない北朝鮮の「素顔」を可能な限り具体的に伝えようとしている。
そこには、どのような体制であっても日々の生活を送る北朝鮮の人々の顔が鮮
明に浮かび上がってくる。
本書では著者自身の10回の訪朝からくる北朝鮮での体験やエピソードが所々
に盛られており、本書に躍動感を与えているようである。著者自ら撮影した写
真も数多く収められており、読む者を楽しませてくれる。 本書全体を通し
ては、北朝鮮の食、映画やオペラ、サーカスなどの文化・芸術、美術、芸術、
教育・スポーツ、交通事情など、書店に溢れる「北朝鮮本」とは異なる北朝鮮
の様々な顔が広範囲にわたって描かれている。 また、本書の随所にわたっ
て、核・拉致・ミサイルといった懸案の事項についても要点よくまとめられて
おり、メリハリのきいた構成となっている。 本書を通してきっとこれまで
のイメージとは異なる北朝鮮像が見られると思われる。むろん、北朝鮮のいい
ところだけを見せられている、という批判もあるであろう。しかし、そもそも
悪いところを積極的にみせる国はなかろうし、そのようなガイドブックもあま
りない。現在の日本における北朝鮮理解に照らして本書のもつ意味を考える必
要があろう。北朝鮮に対して関心をもっている向きには是非お勧めしたい一冊
である。