東京大学名誉教授 海野和三郎
産経(11/13)の「正論」に載った、村上和雄氏の『「心」を変えてヒトは進化する』は
非常に興味をそそる論説である。実は、私も、21世紀人類生存の危機にあって、新た
な高次元の進化を遂げる必要を感じていたので、村上進化論に共感するところ大である。
まず、「ヒトとチンパンジーとのゲノムの違いは僅か3.9%で、以前は「がらくたDNA」
と呼ばれた部位にあり、脳以外でも見つかっている」、というのが面白い。「その一つ
は大脳皮質のしわの形成に関与して、遺伝子スイッチのオンとオフの、タイミングや場
所の決定に関わると考えられている」、とある。以前、「ピラミッドを四つ切りにして、
高さを半分より高い子ピラミッド4つ作ると、表面積は1.2倍とかになり、これを無限
回行うと、表面積無限大の点を作る事が出来る;表面積を(字を書いての)情報量とす
ると『絶対矛盾的自己同一』の幾何学モデルであり、脳のヒダ構造のモデルである」、
などと書いたことを思い出した。「タイミングや場所の決定」に関しても、ヒトという
複雑系の働きの“何時何処で”という要を握っているDNAがチンパンジーと異なると
いうのはすごい発見ではないだろうか。ヒトへの進化の鍵の発見と言えなくもない。
更に、面白いのは、その機能が固定されたものでなく、3つの環境的要因によって変化
する(従って、個人的にも、社会的にも、歴史的にも変わる)ことで、
1.気候変動などの物理的要因、2.食物と環境ホルモンなどの化学的要因、
3.精神的要因、の3つを村上さんは挙げており、精神的要因については、「心と遺伝
子は相互作用する」という。
例として、「笑い」が糖尿病患者の食後の血糖値上昇を抑制し、その際オン・オフする
遺伝子の発見、心にある種のエネルギーがあり、「思い」や「心の持ち方」が遺伝子の
オンとオフを変えるという事実を挙げている。結論として、「心は自分で変えられるか
ら」心の働きを変えるだけで、「遺伝子レベルでも高次の人間に進化できる可能性があ
る。」という。「3つの要因」と言い、「心と遺伝子は相互作用する」と言い、村上さ
んは、ヒトという複雑系の「進化」の本質を熟知して居られようである。
実は、私どもは、NPO法人東京自由大学で、エネルギー・地球環境・食料(人口)問題の
3つ巴の混沌(カオス)のため未来に希望に持ちにくい21世紀は、ヒトの「進化」を
もって対応する以外にないと考え、非力ながら、みんなで「龍馬」役をするよう「21
世紀龍馬の会」への参加を呼びかけることを計画しました。まだ、会の日程も第一火曜
にするか第三木曜にするか未定ですが、月に1回か2回神田の自由大学でやりたいと思
います。テーマは、1.村上式に言うと、心のスイッチをオン・オフする「言葉」(情
報)の問題;2.ヒトという複雑系を変える物理的要因、化学的要因、精神的要因;3.
エネルギー・地球環境保全の最適実行案(森と海とヒトの協働的太陽エネルギー工学)
の3つを考えています。
1.「ことば」の機能は不完全で、態度や芸術、などで補い、他者と心の交流をします
が、何と言っても、ヒトの場合は、情報交換は「ことば」によるのが主力です。しかし、
21世紀になり、ヒトを含む複雑系の記述に「ことば」の不完全性が顕わとなり、特に、
政治やジャーナリズムでは、その不完全性をいいことにして、一方的な放言が横行して、
国家という複雑系の政治、文化、教育が滅茶苦茶になっています。例えば、「天下り」
といった1次元的標語は、各省庁のセクショナリズムとそれを助長しかねない高級官僚
の再就職を批判した「ことば」であろうが、国家行政という複雑系においては、おそら
くセクショナリズムというマイナスが6あれば、各部門の専門性、独自性のプラスも4
はあるであろう。高級官僚が転職してセクショナリズムを助長する可能性が6あれば、
セクショナリズムに批判的な高級官僚も4はいるであろう。それぞれのマイナスを大き
くプラスに転ずる行政の進化を考えるべきである。最も簡単な方策として、「天下り」
ならぬ「天職」での、初任給程度の必要給与支給の制度を作ればよいであろう。
1.2.の両方に関連する大きな問題としては、以前10年かけて伝達された情報が
‘ケイタイ’で1秒で伝達されるようになった事が特筆される。これは、21世紀になっ
て加速度的に時間が短縮されたため、量子力学的に言えば、プランク定数によって時間と相
補的なエネルギーの測定精度が荒くなったことにより、情報の持つエネルギーにヒトの
心が鈍感になることかもしれない。3歳までの赤ちゃんに「返事をしないテレビを見え
てはいけない」(坂本千鶴子:教育通信133号)心の発達に支障が起きるという。このマ
イナスをプラスに転ずる進化を21世紀教育は遂げなければならない。
3.の「森と海とヒトの協働的太陽エネルギー工学」は、目下、実用的に開発中で、簡
単に言えば、現在利用されている太陽電池パネルに20倍集光の太陽光を当てると同時に、
発電に使われなかった太陽エネルギーの8割以上を冷却水の対流で上部の対流防止ポー
ラス・ソーラーポンドに送り、10分程度で沸騰させるという簡単な仕掛けです。20
倍集光には、平面鏡を25枚ほど張り合わせたものを、太陽観測に使うシーロスタット
方式で1日半回転の緩い駆動をすればよく、家庭用2kW発電装置は、恐らく、石油火
力発電による電力価格より数倍安く電力を作るであろう、と(捕らぬ狸の)皮算用をし
ています。
性能の良い太陽電池や充電・蓄電装置ができれば、益々、改良につながることになりま
す。夜間と悪天候によるマイナスと使う場所で作る簡便性のプラスがあります。化石燃
料を出来るだけ将来に残すことが、現代人の義務です。
(第14回地球市民フォーラム大会会長・東京大学名誉教授・理学博士・天文学者)
1925年10月2日埼玉さいたま市生まれ。1943年,旧制埼玉県立浦和中学校 (現・埼玉県立浦和高等学校)卒業,旧制第一高等学校(現・東京大学 教養学部)入学 1947年:東京帝国大学理学部天文学科卒業,東京大学 理学部助手,東京大学付属東京天文台助教授 ,東大理学部助教授,東大 教授を経て1986年退官。近畿大学教授、先事館先事研究所長を経て、 現在:NPO法人東京自由大学学長。 著書:『天文・地文・人文』(東京書籍1980年)共著『星と銀河の世界』 (岩波書店)「星の世界をたずねる」1984年)「されど天界は変 わらず・上諏訪日誌』(東大理学部天文学教室編1993年) 『わたしの韓国語自修法』(東京書籍)ほか |
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天文学者、萩原雄祐の弟子。専門は天体物理学、多く理論天文学者を育成したことで知られる。海野及び海野門下生は通称Unno Schoolと呼ばれ、日本の理論天文学に大きな業績を残している。 海野和三郎の主な門下生:下田眞弘 加藤正二 尾崎洋二 正木功 岡本功 菊池仙 近藤正明 祖父江義明 笹尾哲夫 米山忠興 平川浩正 藤本 眞克 井上一 蒲田健二 正木功 牧田貢 出口修至。スバル望遠鏡 スタッフ、韓国天文学者にも海野門下生が多い。 |
家庭で作る太陽光発電装置は、