地球市民フォーラム宣言文【T】
人類の歴史は、欲望の追求による競争原理に翻弄された紛争の連続でした。20世紀に入って
2度繰り返された世界大戦は科学技術の未曾有の進歩を促し、その結果、人類社会、とくに先
進諸国では、高度の物質文明が発達しました。しかし、その反面、核兵器の拡散、貧富の差の
拡大、テロ、地球環境破壊など深刻な問題が派生し、人類の生存そのものが脅かされる事態に
なっています。これらの“地球規模問題群”(global issues)を直視するとき、この際、全
人類が従来の発想と価値観から脱却して、新しい倫理と行動様式を確立しなればならないこと
は明らかです。
とくに今日の地球規模の複合汚染は人類の未来に暗い影を投げかけています。資源の乱獲と無
秩序な利用に伴う自然破壊、製品の大量生産と大量廃棄、化学物質による環境汚染と健康障害、
―これら全人類に関わる諸問題は、単に政治・経済・外交上の課題にとどまらず、国家の産業
・経済活動から個人の消費行動に至るまで、私たちの日常生活の根幹に深い影響を及ぼしてし
ています。とりわけ地球温暖化問題は深刻で、既存の技術では解決不可能であり、私たちがラ
イフスタイルを根底から改め、あまねく循環型社会を実現する以外にないと指摘されています。
このような“地球規模問題群”に対する認識を共有するなら、人間は地球生態系の一員であり、
「内なる自然」ともいうべき自己と、「外なる自然」である環境との相互連関を通じて、共に
創造的進化を遂げなければならないという結論に到達します。私たちの生存が保証され、未来
を託せる道は、自然生態系との「共生」以外にはあり得ません。それゆえ、人間生活のすべて
の営みは、自然との「共生」を常に意識しつつ、欲望の自己抑制、道徳心の涵養、倫理性の向
上などの努力を通じて、「いのちの尊厳」という価値観を個人と社会の中に確立していくこと
にその目標を置かなければなりません。
私たちは、たとえどんなに小さなことでも愛(いつくしみ)の心を忘れず、人類が直面する
“問題群”に対処するに当たっては、一人ひとりが自らの行為に使命感と責任感をもって努力
する心構えが必要です。そうした心構えをもって、私たちは、それぞれが所属する組織・団体
・地域社会と連帯し、地球市民としてのネットワークを構築し、相互に協力し合うことによっ
て、社会の進路をより健全な方向に転換する原動力となることを誓います。この使命感と責任
感に基づいて、思想と行動が一体になったとき、「発展」と「持続」、「自由」と「安全」の
両立がそれぞれ可能となるものと確信します。
「私とは、私自身と私の環境との連体である。そしてもし、この環境を救わないなら、私も救
えない」とスペインの哲学者ホセ・オルテガ・イ・ガセットは語っています。私たち“市民国
連”は、「国際連合」をはじめとする国際機関に対して市民ならではの提言を積極的に行い、
「いのちの尊厳」を原点に、ヒューマニティに溢れた「真の平和と豊かな文化」の実現のため
に、人びとのために、人びとと共に、邁進することを宣言します。
2009年11月28日 東京
第14回地球市民フォーラム参加者一同
地球市民フォーラム宣言文【U】
現代は科学革命の時代と言われている。交通・通信手段の発達をはじめとして、科学の恩恵を
抜きに現代生活は成り立たないことは確かである。反面、科学は、核分裂反応の利用という
「パンドラの箱」を開け、人類絶滅の脅威をもたらしたのをはじめ、経済発展の格差から生じ
る絶対的貧困を生み、さらに20世紀初頭、文明批評家達が警告したように、人間の“非人間
化”(de-humanization)を造り出した。
今回のメイン・テーマである地球環境問題をとっても、科学の粋を極めた核兵器など大量破壊
兵器の使用そのものが最大の環境破壊であり、他方、生態系とのバランスを無視した”“経済
至上主義”の結果としての環境破壊、これを加速化させているのも科学の力である。
地球温暖化阻止のためにも、その他の地球環境問題の解決のためにも、3R(Recycle, Reduce,
Reuse)の励行、自然エネルギーの活用、私たちのライフスタイルの転換、そのための意識改
革が不可欠である。
科学革命で先駆的役割を果たした西欧諸国は科学技術の圧倒的な力で世界を席巻した。その背
後にある、個性・人権・自由・民主主義を尊ぶ西洋的伝統には十分敬意を払うに値する。しか
しながら、現在、未曾有の危機を人類にもたらしているのもこの西洋の伝統にあることに着目
すべきである。
西洋では「存在」を、環境を捨象した「個」と捉えてきたのに対して、東洋では存在を「場」
―関係性と捉える。環境を無視して「個」を主張しようとするパラダイムから環境破壊が起こ
るのは当然の帰結である。地球温暖化問題でも、空・陸・海の包括的な調和を取り戻すことが
大切で、個別の対応と共に複眼的に思考とアプローチで対応すべきである。たとえば、東洋で
は人間を「ヒトとヒトの間」、つまり「連体」と捉える。人間現象の一部に過ぎない経済活動
のみを取り上げ、経済学を論じようとすること自体が誤りである。予定調和の楽観主義が支配
した時代を生きたアダム・スミスは、人間の利他性を認めながらも、人間のエゴと自由性によ
り大きな期待をかけた。新しい経済学は環境保全のパラダイムを重視し、人間をどう捉えるべ
きかの原点から再出発すべきである。
「もったいない」という日本語が国際的にも普及している。日本文化の伝統の中には、「見え
るものの背後には必ず、見えざるものがある」という、物心一如の捉え方がある。「永遠の今」
という東洋の叡智も「今」は過去の相続であり、未来の胎動を包摂した時間を超越した「今」
を語っている。ここに西洋の科学文明が陥った危機を克服するヒントがある。私たちは、“地
球的問題群”解決の鍵は、現象の根底に横たわるパラダイムの転換にあると信じる。自然を含
めた共生と共栄の平和な世界を築くには、東西文明の融合の上に、東西の枠組みを超えた新し
い視点を構築すべきであると確信する。
2009年11月28日 東京
第14回地球市民フォーラム参加者一同